2023年10月15日日曜日

カルネアデスの感触 (ネタバレあり)

カルネアデスの感触を観劇してきた。全公演を終えたので、以下ネタバレを気にしない感想。

カルネアデスというのは古代ギリシアの哲学者の名前。そしてその彼が問うた、自分の命を守るために他人を蹴落とすことの是非、カルネアデスの板を下敷きにした話。

無人島にある洋館に集められた人々は、実はある海難事故の生存者であることが明かされる。数が足りなかった救命胴衣争奪戦の勝者である彼らは、まさに他人を蹴落として生き延びた人々だったわけだ。ただし、この国の法的には緊急避難ということで罪には問われない。

だから、事故で娘を亡くした佐野(本当は水島)が、法で裁けなかった娘の仇を討つために殺人を重ねた。…と見せかけて、実は五十嵐(仮名)が裏で糸を引いており、事故の生存者の中で殺人の連鎖を仕掛けていた。そしてその目的は、蹴落とされた事故の犠牲者達を殺しておいてのうのうと過ごしている生存者に人を殺す感触を覚えさせ、罪の意識を背負わせること。なるほど、だからカルネアデスの感触というわけか。

五十嵐の誤算は、佐野とのズレを過小評価していたことだろう。単純に殺して復讐したい佐野と、人殺しの罪の意識を覚えさせたい五十嵐。生存者に生存者を殺させれば両方の目的が達せられるから問題ないと思ったのだろうけど、佐野に芽生える罪の意識をケアできていなかった。これは利根川がカイジを蛇だと思ってしまったのと同じように、五十嵐が佐野を同類だと思ってしまったのだろう。もっとも、計画を完遂できなかったとは言え、五十嵐の目的は十分達成できたように思えるが。

本当の悪人は海難事故を引き起こした杜撰な企画会社の連中だけだったのに、巻き込まれた人々が狂わされる。結果を見ると実にやるせない話だった。そんな事件を、乃愛はどのように記事にしたのだろうか? ただ事実を淡々と書き連ねたら4年前の事故を蒸し返し、下手をすると友人である望を含めた生存者に、社会的な罰を与えてしまいかねない。巻き込まれた人々をこれ以上傷つけないよう記事をまとめられたら、敏腕記者として認めよう。

罪を意識させるという点でキルスコアの話がよぎった。

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