全公演を無事終えたので、もうネタバレを気にしない感想。
まず、舞台は前作の主人公である古家野美津(以下美津)が亡くなった後の世界。そして、今作の主人公は美津の相棒だった軍司。
そんな軍司は何をしているかと言うと、惚れた女・ゆいが置いていった連れ子を自分の子・岩谷美津(以下ミツ)として育てている。立場は人を育てるもので、ダメダメだった軍司がチンケな香典泥棒から足を洗って、しっかり(??)働いて父親をやっているのだ。ミツも「お母さんがいないのは寂しいけど、お父ちゃんがいるので大丈夫」と言っており、歪ながらもそれなりにバランスは取れていた。
その均衡を崩すのは、再婚して生活の安定を得たところでミツを引き取りに来た実の母・ゆいと、軍司の病。死期が迫ると幽霊が見えるという設定は継続で、今作では軍司が「見えてしまう」のだ。
長い時間で培われた軍司とミツの関係は深く、実の母といえどゆいに割り込む余地はなかった。にも関わらず、自分の死を悟った軍司がミツを突き放してゆいに託すシーンは、あまりに切なかった。最期を見せまいとする、父親としての最後の気遣い。そして、ミツが去った後にいつものようにおちゃらけて見せる、周りの人達への気遣い。死にそうな人にあんなことをされたら、もう皆辛いわな。
そんな軍司に正直に甘えろと言うのが、見えてしまう幽霊の美津。生前にそれをできずに後悔している死者のアドバイスは重い。それでもまた美紀と有希に対しては気を遣ってしまい…。いや、やっぱり、正直に甘えるってのは難しいよ。よほど甘えて生きてきた人でもないかぎり、これまで積み上げてきたものを崩すのは怖い。だからこそ、最後の最後に正直になれたのが、体面を気にせずに接することができる幽霊の美津だったのだろう。劇中では亡くなって久しい美津が現れたのは、このためだったのかもしれない。
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